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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
なにしろ、こっちは、進退、法にかのうた喧嘩上手ばかり、敵の人数の多いことなんて、恐れはせん。そしたら、……」
と、なおも、自分が顔役として売りだすきっかけとなった血闘談を、たのしげに、つづける。
――やがて、警察の手が入ったので、一時、子分たちは、地方に、身を隠した。吉田は、一歩も家から出なかったので、お構いなし。これには、町の長老や、有力者の諒解運動があって、これだけの大喧嘩がウヤムヤになった。ひとり、吉田磯吉の名声が高まったのである。
この騒動を機に、若松には、警察のほかに、憲兵屯署が設けられるようになった。
それから、吉田の話は、
「玉井、森、君たちは、まだ、苦労が足らんぞ」
という言葉から、若い時代の苦闘談になる。いつ尽きるとも知れない。
「おれは、川舟乗りじゃったよ。十六くらいのときから、船頭になって、えらい苦労をした。夏は、まあええが、冬分は死ぬ思いじゃったなあ。遠賀川の洲の岸に、水棹を立てて、それに、舟を綱で纜う。寒風が吹きさらす。雪が降る。積荷の石炭の上にゴザをしいて、赤毛布一枚にくるまって寝たよ。今どきの若い者が、あたたかいものを充分に着こんでいながら、寒いなんち、いうちょるのは、ちゃんちゃら、おかしい。