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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

捨てたら、もう、あたしのもんじゃない。どうぞ、海にもぐって、拾って下さい」

「この野郎、途方もないこと、ぬかしやがる」

茄子色の鉄拳が、マンの頬に飛んで来た。

しかし、掌は空間で空舞いし、男はよろめいて、味方の一人にぶっつかった。

「娘ッ子と思うて、甘くあつこうとりゃ、ええ気になりやがって……」

四人の男たちは、いっせいに、マンに襲いかかって来た。

マンは、袋の鼠になった。

ところが、もみあって、幾ばくも経たない間に、角刈の茄子色は、奇妙な呻き声を発すると、そこへ、提灯をたたむように、へなへなと、坐りこんでしまった。顔色は大根葉色に変じ、眼も、口も、顎も、ひきつって、やがて、涎をたらして、地面に伸びた。

「おいおい、どうした?」

他の三人は、おどろいて、ぐったりとなった兄貴株の男を、抱きおこした。

そのときには、もう、マンの姿は、どこにも、見あたらなかった。

「殺られたのか?」

三人は、きょろきょろと、悶絶男の身体中を探したが、どこにも、傷痕はなかった。血も出ていない。しかし、男は虫の息である。

桟橋のところへ降りた一人が、海水を、手拭に浸して来た。それをしぼって、人事不省の男の顔をぬらした。