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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

これが、全財産である。蓋を取り、ごたごたと詰めこんである衣類を持ちあげて、底の方に、手をさしこんだ。

(おや?)

と、不審の面持になった。

急に、あわてて、中をまぜかえした。

「ない」

顔色を変えて、呟いた。

道後湯の町で買いもとめた助広の小刀、故郷を飛びだすときにも、どこを放浪しても、常に、肌身はなさず持ち歩いたのである。

(盗まれたか?)

悪いときには、悪いことが重なる。乱れた心を、助広の美しい肌を眺めて、落ちつけようと思ったのに、碌なことはない。――と、金五郎は、いよいよ腐った。

「金さん」と、いつ入って来たか「ノロ甚」が、「短刀じゃろ? ありゃあ、おマンさんが借りてゆくちゅうて、持って行ったどな」

「なんて? おマンさんが、おれの短刀、持って行った?」

金五郎は、唖然とした。

「おれが、一人で、ここに寝ころんどったらな、おマンさんが入って来て――金五郎さんをいくら探しても、姿が見えん。相談して借りようと思うたけんど、居らんけ、仕方がない。急に、要ることが出来たけ、借りて行きます。あんた、証人になっといて。……そんなこというてな、その行李の中から、取りだして持って行ったよ」