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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
順序から行けば、彼が助役になるところだが、新米の玉井金五郎から、見る間に追い越された。角助は、金五郎を憎むとともに、親方の永田杢次を恨んでいた。
金五郎は、デッキにもたれて、港内を見わたした。
洞海湾の風景は、関門海峡とは、また、趣を異にしている。
瓢箪形の巨大な入海は、戸畑、八幡、若松、という三つの町に取りかこまれ、中島、葛島という二つの島を浮かべている。小倉の足立山、八幡の帆柱山、若松の高塔山などの山々が、この湾を包んで、八幡製鉄所をはじめとする大小工場の煙突が林立し、煤煙が空を掩っている。港の中の多くの船舶、沿岸を走る汽車――そういうすべてのものの底から、湧きあがって来る力動的な騒音。
(ここの港は、生きている)
金五郎は、洞海湾の溌剌とした鼓動が、じかに、自分の心臓にふれて来る思いで、この風景に、不思議な魅力を感じた。
しかし、視線が、若松の方に移ると、金五郎の顔が、しかめ面になる。
(若松はうるさいところじゃ。吉田磯吉親分をはじめ、江崎満吉、友田喜造、ドテラ婆さん、などという暴力団が、たくさんいる。若松は、行くところでも、住むところでもない)