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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
その夜、マンは、金五郎から、角助の申し出を聞かされて、笑いだした。
「なんですか。そんなことやったの? 角助に、なんの仁義を立てるの? どんなことがあっても、あんたが、行きなさいよ」
と、強く、武蔵温泉行をすすめた。
その旅先で、どんな途轍もないことが起るか、もとより、マンに、わかろう筈はなかった。
遠足の当日は、あいにく、雨になった。しかし、風をともなわぬ、春雨のような、しっとりした降りかたで、かえって、旅情を添えるものといえなくもなかった。
戸畑駅は、閑散である。九州鉄道の幹線が開通し、この戸畑町に停車場が出来たのは、三年ほど前、人口も、六千人に半満ちているにすぎなかった。しかし、筑豊炭田を受ける洞海湾の一角の町として、海岸には、鉄道院が設備した、近代的な炭積機械が、巨大な鉄の昆虫のようにそびえ立って、秋の雨に濡れている。牧山にあるホイスト・クレーンの繋船壁も、工事が進行中で、もう、完成が近い。
雨中に煙る、こういうものを眺めながら、大庭春吉は、かたわらの金五郎をかえりみて、
「港も、石炭にかけちゃあ、盛になるばっかりじゃなあ。今に、日本一になるぞよ」