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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
まもなく、一円札を十枚揃えてあらわれた。
「おマンさんのことじゃけ、まちがいあるまい。詳しいことは、明日、聞こう」
「ありがとうございます」
それを受けとると、走るように、わが家に急いだ。
秋の夜気が冷たく、襟首にしみる。月は氷の塊のようである。
帰ってみると、家の中では、活劇が展開されていた。泥棒が出刃庖丁をふるって、猫とたたかっている。七匹いる猫のうち、勇敢で忠実な数匹が、怪しい闖入者に向かって、背の毛を逆立ちにし、歯をむきだして、唸りながら、対峙していた。泥棒は屁っぴり腰で、庖丁をふりまわし、ただ、「シイッ、シイッ」と、追っているばかりだ。
マンの姿を見ると、猫は静まった。鳴き声を立てて、マンに寄って来た。
「借って来てあげましたよ。……ほら」
マンは、十枚の一円札をさしだした。
泥棒は、ふるえる手で、それを不器用に数えていたが、なにか考えこむように、黙りこんでしまった。洟水をすすりあげている。やがて、顔をあげた。
「こ、こんなには、要らん。六円あれば、間に合う。四円はかえす」
「ええですよ、持って行きなさいよ」
「いんや、六円で、ええ。あんたも借りたもんなら、またかえさにゃなるまい。