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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

待ちこがれた夫を見たうれしさや、腹立たしさや、悲しさやがこんぐらがって、

(ふン、今時分まで、どこをほっつき歩いとったか知らんけど、いきなり、飛びこんで来て、間男呼ばわりするなんて、勝手のええにもほどがあるわ)

心のうちで、そんな天の邪鬼な意地を出していた。

マンは、金五郎が右手に握っている刀に気づくと、不審の眉をひそめた。夫が、後生大事にしている助広だ。二年ほど前、彦島で、遊び人たちの襲撃に備えて、金五郎の柳行李から無断で借りて行ったことがある品。結婚してからも、ときどき、取りだして手入れをしているので、マンも、刀の肌や形や色に、見おぼえが出来ていた。

(あの小刀は、家の桐箪笥に入れてあった筈じゃが……?)

そうとすると、夫は帰宅すると、いきなり、飛びこんで来たのではないことになる。しばらく、様子を見ていて、そっと、箪笥から、刀を取りだしてから、障子を開いたのであろうか。

正坐した時次郎は、握った両拳を太股のうえにつき、金五郎を無言で、凝視している。恐怖の感情からではなく、この変な男の正体を、見きわめようとしているもののようだった。

(これが、恋敵か?)