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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

パナマ丸は、ブイに、繋留された。

永田組の伝馬船に、「友田」方の伝馬船が、漕ぎ寄って来た。舳に、提灯を高くかかげた平尾角助が、突っ立っている。

「永田杢次は、居らんか?」

二隻の舷が接すると、角助が呶鳴った。不潔な雑巾のような、醜悪な正方形の顔に、陰険で、狡猾そうな眼が光っている。

金五郎は、デッキから、棚伝いに降りて来て、角助と相対した。

「角さん、なんか、用ですか?」

「お前に、用はない。永田の親方を出せ」

「わたしが、現場の責任者じゃけ、仕事の話なら、わたしが聞きます」

「下ッ端は、引っこんどれ。永田組の仕事の話は、永田の親方にするんじゃ」

「角さん、それでは、筋が通らんですよ」

「なんでや?」

「あんただって、友田さんでも、ドテラ婆さんでもないじゃないか。それとも、その伝馬船の人たちは、平尾組の若い衆かね?」

平尾角助は返答に窮して、眼を白黒させた。頭が悪いので、条理を立てて来られると、すぐに、言葉に詰まる。

「わたしも、下ッ端なら、あんたも、いわば、下ッ端。そんなら、下ッ端同士で、話は出来る筈です」

金五郎は、静かな語調でいった。

「よし、そんなら、話をする。