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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「やります」
角助も酔っていて、そういうと、坐りなおした。正方形の醜悪な顔が、ベンガラ色になっている。膝のうえに乗せた手には、左の小指、薬指、右の小指、いずれも、第二関節から先がない。丸太ン棒のようである。
「三味線は、要らん。日露戦争の尻とり歌じゃ。言葉の最後の字が、次の言葉の頭になっとるところを、照覧あれ」
「講釈は、それくらいで、ええ」
「そんなら」
角助は、天に顔をあげ、「日本の、乃木さんが、凱旋す、雀、目白、ロシヤ、野蛮国、クロポトキン、きん玉、マカローフ、褌、しめた……」
「ちょっと待った」と、女親分が、笑いながら、「角助どんは、しめようにも、褌がないのとちがうか。いつも、ドジばかり踏んで、玉井から、赤恥かかされちょるが……」
「玉井金五郎は、かならず、わたしが殺しますよ。まあ、見とって下さい」
芸者の中にいるお京の眼が、その言葉に、妖しく、光った。
「玉井組も、今日は、来とりゃせんかね」
「来とりますよ。幹部だけらしゅうて、六ゾロの源公たち、五六人、神社の裏手で、こっそりやっちょります」
「金五郎は?」
「さあ、後から来たかも知れんけんど、わたしが見たときは、子分だけでした」