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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
一段と、声を張りあげた。
「おごめん。誰も、居らんとですか?」
その声で、裏の小屋でワラジを編んでいたマンが、出て来た。
「なんぞ、御用で?」
「玉井金五郎さんは、居りませんか?」
「いません。お昼すぎに、若い衆と、花見に行ったきり、まだ帰りません」
「あんたは、ごりょんさんですか」
「ええ」
「そんなら、あんたでも、よかろう。これを、江崎親分からことづかって来ました」
俥ひきは、腹がけの丼から、一通の封書をとりだした。マンに、渡した。
受けとって、
「返事が要るとですか?」
「はあ、返事を貰うて来い、といわれました」
「それでは、いま、見ますけ……」
マンは、封を切った。
奉書の巻紙に、なぐり書きのような太い筆で――「前略四月八日、午前零時、貴殿宅へ、ナグリコミヲ掛ケル所存ニ付、左様、承知下サイ。江崎満吉ヨリ」
マンの顔から、血の気が引いた。かすかに、動悸が打って来た。唇を、ぎゅっと噛んだ。
しかし、表面は落ちついた様子で、
「わかりました――と、江崎親分にお伝え下さい」
と、いった。
「そんなら」
そういって、出ようとするのを、
「あ、俥屋さん」
と、マンは、呼び止めた。