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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「薬なら、おれが買うて来るよ。あんたが、居った方が、ええ」
「時やんでは、わからん。そんなら、頼んだばい」
マンは、せかせかと、玄関に出た。風呂敷包みを抱きとると、格子を開け、深夜の戸外に飛びだした。戸をしめるとき、なんとなし、家の中全体を見まわした。きゅうと、胸が、ワイヤの箍ででも、締めつけられるようである。
提灯の明かりを頼りに、静まりかえった新仲町を抜けた。夜気が冷たい。天には、星が一杯、火の粉のように、頭のうえに振りかかる近さできらめき、マンの行く手で、つづけさまに、二つ、星が流れた。マンは、その流星に、ひやりとしたものを感じた。足のすくむ思いがした。
「永田清涼飲料水製造所」の白い看板が、夜闇に、ぼんやりと、浮きあがっている。
「今晩は」
戸をたたくと、すぐに、ヨネが顔を出した。永田杢次も、出て来た。まだ、起きて、誰かと碁を打っていたらしい。
「おマンじゃないか。今ごろ、他所行支度で、どげえしたとな?」
「広島のお父さんと、お母さんとが、どっちも悪いという知らせがありましたけ、これから、ちょっと、田舎に、帰って来ます」
「また、急なことじゃなあ。今からちゅうたって、汽車があるまい?」