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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

しかし、それも瞬間で、土の上に落ちた鯛は、犬の泥足に踏まれ、口に銜えられた。ひろい皿が投げすてられ、大きな音を立てて、微塵に砕けた。

そういう動作が、すべて、金五郎への当てつけに行われたものであることは、一点の疑う余地がない。久八が、大声で、ピスを呼んだのも、わざわざ、金五郎へ聞えるように仕向けたのである。

しかし、金五郎は、なにもいわず、無言で、その場を去った。

(吉田磯吉という親分は、もうすこし、増しな侠客かと、思うて居ったんじゃが……)

腹立ちや、憎しみよりも、心の底から、軽侮の念だけが、湧くのだった。そうすると、心も軽くなって来る。相手が立派でないとわかれば、問題にするに足りないのである。解放されたような気持だ。口笛が吹きたい。

俄かに、軽い足どりになった金五郎は、「今ごろは、半七ッあん、どこに、どうして、ござろうぞ」と、口三味線で、義太夫を口吟みながら、「飛鳥」の方向へ、足を向けた。

森新之助の顔を見ると、金五郎は、仏頂面になって、

「新公、今日は、すこし、こみ入った話をしに来たんじゃ」

と、いった。

「そうか。こっちからも、こみ入った話がある。