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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「流されたところで、湾の奥の方じゃけ、それは心配ないが、……沈んだりすると、どっちも泳げん奴じゃからなあ」

「オヤジ、この嵐は朝までは止まんばい」

「徹夜で船を守るんじゃ」

暴風雨は勢を増す一方だった。

暗くてよくわからないけれども、どこの組からも人数がくりだされて、伝馬船の警戒がなされている。暗夜の中に黒い人かげが動き、カンテラの灯がちらつく。

金五郎は、桟橋の反対側にある大伝馬のことが気がかりになって、荒れ狂う船づたいに、桟橋に飛びあがった。危く足をふみ外して、海に落ちそうになった。やっと這いあがって、桟橋に立った。

正面からのはげしい風雨に、頭を突っこむように、身体を傾けて歩きだしたとき、いきなり、カンテラをなにかで殴った者があった。思わず取り落すと、ガラスが割れて、火が消えた。

「誰か、乱暴するのは?」

そう叫んだ金五郎の眼に、ばらばらと、五六人の人かげが自分を取りかこむのが見えた。稲妻の青い光の中に、その連中の一人々々が、それぞれ抜き身の日本刀、匕首を持っているのが認められた。

手ぶらの金五郎を、一気に斬りふせようという作戦らしく、暴漢たちは、金五郎にかまえる隙もあたえず、いっせいに、襲いかかって来た。