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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
魚のように、生ぐさかった。
口中に入った血を、ぷッと吐きだし、
「吉田の身内か?」
そう呶鳴ったけれども、それはもう声にはならなかった。
雷鳴をとどろかせて、なおも吹き荒れる暴風雨が、ときどき、アセチリン瓦斯のように、稲妻の中に、まっ青に浮きあがる。湾内のどこかで、沈没する船でもあるのか、悲鳴と、汽笛と、鉦の音とが、しきりに鳴りひびいている。
金五郎は桟橋の上に倒れて、意識朦朧となりつつあった。全身を、刀と匕首とで、膾のように突かれ、刻まれるのが、もはや、痛みのない麻痺の中で、はっきり、わかった。死という観念も、命という思想も、瀕死の神経には湧いて来ない。そして、気ちがいじみた奇妙な滑稽感が、金五郎の唇を苦笑で歪ませようとしていた。
「止めを刺せ」
そんな声がかすかに、聞えた。
すると、それを聞いた瞬間、不思議なことに、突如、猛然と、(生きたい。殺されてたまるか)というはげしい生命慾がよみがえり、
「貴様らに、負けるか」
そんな言葉が口を突いて出た。しかし、それは全然言葉にはならず、蟹の泡のような、哀れな呟きにすぎなかった。起きあがろうとしたけれども、微動も出来なかった。