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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
起きあがろうとするのに、飛びかかってねじ伏せた。暴風雨はなおはげしく、二人の転んだところは水のたまった泥沼だ。まるで、二人ともドブ鼠である。格闘しているうえを電光が照らす。
角助は、金五郎を殺したと思っている。源十は、オヤジを殺されたと思っている。どちらも必死だった。しかし、どちらも武器がない。ただ、組んずはつれつしながら、叩きあいをしているばかりだ。
ところが、数分の後に、角助は、源十の打擲の下に、急におとなしくなった。「六ゾロの源」はもう無我夢中である。狂気に近かった。金五郎を慕う心が、この誠実で一本気の男を逆上させたのである。いつか、赤煉瓦のかけらが、右手に堅く握りしめられていた。異様な呻きに似た声を発しながら、それを力まかせに、角助の頭に打ちおろしていた。角助が動かなくなっても、頭蓋骨を砕く力を抜こうとしなかった。源十はここに一個の機械と化したごとくである。
そして、おかしなことに、痴呆のごとくなった源十の口をついて、
「おマンさん、おマンさん、……おマンさん、……」
その言葉が、これも蓄音機のように、単調に、間断なく、吐きだされているのだった。