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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
病みあがりででもあるのか、豊艶であった顔は青白く、ひどく痩せが目立っている。水々しかった銀杏返しの頭も、洗い髪にしているが、油気が抜け、ほつれ毛がたれさがったまま、張りのある眼にだけ、なお、昔ながらの妖しい光がただよっているけれども、それすらも弱々しく、深い憂いのいろに彩られていた。その眼に、うっすらと、涙がたまっている。
プッ、プウッと、ラッパの音とともに、数台の人力車は、街の方へ、ゆるやかな速度で出て行った。先登の車に、大庭春吉、次に、金五郎、その後に、マン。いずれも、幌が被せられていて、顔は見えない。幌の小さいセルロイド窓から、金五郎の白い繃帯だけがちらちらした。
お京は、かたわらの胡蝶屋豆八をかえりみた。その耳に口をつけて、なにか、ささやいた。豆八は、深刻な顔つきをして、何度も、しきりと、うなずいた。その豆八の眼にも、涙が光っている。
群集の中に、お京の姿は消えた。
北九州の空に、満洲シベリヤの野から、日本海を渡って来る寒風が吹きはじめる。
十二月に入ると、すぐに、蛭子神社の大祭だ。祭は春と冬との二季に行われるが、冬の方が本祭である。近郊近在からの参詣客で、毎年、鼎のたぎる盛況を呈するのを常とした。