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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
……それを、嘘をついたなんて、……」
光丸の声は、とぎれとぎれ、喘ぎ喘ぎ、涙といっしょのように思われた。
「とにかく、僕が馬鹿だったんだ。馬鹿じゃけ、騙されたんだ」
投げだすような言葉。
「騙されたなんて、……そんなこといわれたら、あたし、立つ瀬がないわ。恩も、義理も、すてて、あなたを慕うたとに、……」
それから、また、しいんとなった。
金五郎が、なお、呼吸を殺していると、部屋の中で、はげしい嗚咽の声が起った。それは、一人だけのようでもあり、二人いっしょのようでもあり、悲しみと苦しみとを、なにかの想念で抑圧してはいるけれども、おさえきれず、溢れほとばしり出る堰の流れに似た、切なげなひびきをたたえていた。
また、静かになる。
「ねえ、あたしのいうとおりでしょ?」
というように、コヨが金五郎の顔を見る。
金五郎は、巨大なためいきが出た。
「……恩も、義理も、すてて、……」
その光丸の言葉が、金五郎の厚い胸を、鋼鉄の矢のように、貫いた。
部屋の中で、人の立つ気配がした。出て来るようである。金五郎は、あわてて、かたわらの手洗所の中に隠れた。老練なコヨは、急にすました顔つきになって、たった今、ここへ来たという素振りをした。