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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
おたがいに、無言で、自分だけの注意力を集中している。
雨の降る気配の鼓の音がし、三味線と唄とがはじまった。花道にすぼめられた一本の蛇の目傘があらわれた。踊り手二人の上半身が、その中につつまれている。顔は見えない。そのままの恰好で、花道から、舞台の中央に出た。屋形舟の前に来て、傘をひらいた。
文金高島田のうえに手拭をかぶり、五位鷺の裾模様のある振袖をひるがえしているのは、御殿女中に扮している光丸。
男役になっている女は、頭を鬘下にし、荒い縞模様の着物を着ている。二人は相合傘の中で、形をきめると、男役の方が、正面を向いた。
金五郎は、びっくりした。眼を、皿にした。
(お京、……?)
二十歳を
越せど、
色恋は……
唄と三味とに乗って、二人は、柔軟に、舞台一杯を動き、踊る。優婉で、美しい。「掟きびしき白玉の、露にも濡れしことはなく」――色恋を法度として遮断されていた初心な御殿女中が、はじめて知った男への恋慕のきびしさに、とりのぼせる所作事らしい。
不粋な金五郎には、それくらいの意味しかわからないが、そんなことよりも、男役になっている女の顔に、瞬き一つせず、彼の眼は釘づけされていた。