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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「よし、みんな、引きあげろ」

その号令で、部下たちは、いっせいに、刀を収った。ぞろぞろと、塀に添った暗い植えこみの中に消えて行った。

「どうぞ、肌を入れて下さい」

そういわれて、金五郎も着物を着た。立った。鳥打帽の男に、これまでになかった或る威圧を感じていた。

(このあたりの者じゃない。何者か知らん?)

その疑念が強くなって来た。

「玉井の親分さん」

唐獅子の彫青を包んでから、相手は、静かな語調で、呼びかけて来た。

「うん?」

「危いところでしたな。あなたは命拾いしましたよ。わたしは金儲けの傭われ兵だから、あなたを脅迫するだけで、商売はすんではいたんですが、……もし、あなたが玉井金五郎さんでなかったならば、ひょっとしたら、あなたを斬っていたかも知れませんなあ」

謎めいた言葉に、金五郎は、ただ、無言で、相手を見つめた。

奇妙な男は、しんみりした口調になって、ひとり言のように、

「わたしは、十五年ほど前、たいへん世話になった親分を斬ったことがありますが、今、そのことを思いだしていましたよ。或ることで、親分と意見が衝突したんです。ひどく罵倒されて、血気盛りで、若かったわたしは、かっとなって、思わず、匕首を抜きました。