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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
マンは、笑った。そして、煙管を取ると、キザミをつめ、胸を張るようにして、深々と、一服、吸った。フウッと、やわらかく煙をはきだす口辺に、不思議な微笑がただよっている。
その夜、中立聯盟合同演説会が、公会堂において開かれた。
午後七時、定刻どおり、はじめられた。超満員である。
演壇の後の白壁に、ずらりと、スローガンや演題がならんでいる。
「若松のバイキン共を葬れ――原田雲井」、「自治の本義とは何ぞや――井上安五郎」、「市会を市民の手に――玉井金五郎」、「暗黒の中に灯を――中村勉」、「働く人々のための政治――玉井勝則」、その他。
原田雲井は雄弁である。日ごろは、袖口の切れた洋服に、切れかかったバンドをしめて、破れ靴をはいているけれども、演壇に立つと、実に堂々たるものだ。顔をつつむ髯も、布袋のような巨躯とともに、あたりを払う威風を示している。
「……民政党は、バイキンであります。バチルスであります。この愛すべきわれらの港若松を、バイキン暴力団共に荒らさせてはなりません。バイキン共は、十七匹、枕をならべて、出馬いたしましたが、ことごとく、一匹残らず、轡をならべて、討死させなければ、この若松に、いつまで経っても、市民の平和と幸福とは実現しないのであります」