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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

喧嘩を売ったのは向こうです」

「向こうも、こっちもあるか。祭の日に、人騒がせをして不都合な。署まで来い」

「行きません」

「行かん?……おい」と、巡査に呼びかけ、自分も勝則の腕をつかみ、「こいつを、検束しろ」

帽子の顎紐をかけた黒衣の警官が、三人がかりで、勝則を引き立てて行った。胸中に憤りが渦巻いていたけれども、勝則は歯を食いしばって、おとなしく同行した。

顔見知りの署僚がおどろいて、すぐに、釈放してくれた。巡査部長は、最近、門司から転勤して来たばかりらしかった。

その夜、勝則は泥酔した。

喧嘩をふっかけて来たのが七区の方であることは、山笠の位置を見れば一目瞭然なので、十二区の方は、なんのお咎めもなかったけれども、気の鬱屈は避けがたい。これも同じくむしゃくしゃしている子分連中と、山笠をおさめてから、自宅で、憂さ晴らしの饗宴を張った。

いいようもない怒りと、悲しみと、みじめな気持とが、いつになく、勝則を酒に溺れさせた。早く酔いたくてたまらず、がぶ飲みをした。

「勝則、お前、そんなに飲んで、……」

マンが心配していたが、母の言葉も耳に入らなかった。

そして、前後不覚に、意識をうしなったのである。