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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
しかしながら、息子の方は、両親を恐れていた。苦悩に痩せる思いをしながらも、勇敢に、「竹の家」を訪れたようには、両親の前には膝まずくことが出来なかった。
井上安五郎の門を叩いた。斡旋方を懇請した。しかし、この思慮深い政治家は、青年の取りのぼせた希望を、おだやかに、否定した。
「勝則君、君はまだ若い。結婚は一生のことだ。そんな一時の興奮で、生涯を台なしにしてはいけない。僕はよく知っているが、芸者を女房にした者で、十人のうち九人までは、うまく行っていない。君の再考をすすめる」
原田雲井も、自分の手には負えぬ、といって、頭をかいた。
勝則は、窮した。
それから四五日経った或るむし暑い日の深夜、玉井家の表格子を、けたたましく叩きながら、大声で、案内を求める者があった。
ババンが、出て行った。
「今、開けます」
そういいながら、内側から、錠を外しているとき、時計が二時を打った。
やがて、玄関で、なにやら、いい争っている声がしていたが、ババンは、当惑した様子で、マンの寝室へやって来た。蚊帳の外から、
「おマンさん」
「はい」
何故か眠れずに、蒲団のなかで、チンチンと鳴る時計の音を聞いていたマンは起きあがった。