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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

そこへ、栗田銀五があらわれた。

「玉井は居らんか」

そういうと、もう、二階の階段をあがって来た。

青白い顔はいっそう青ざめ、ひきつったように、全身を貧乏ゆるぎさせている。剃刀のように鋭い白眼勝ちの瞳は、殺気をたたえていて、はげしく、吃った。白っぽい単衣絣に、白縮緬の帯をしめている。勝則の前に、中膝で坐った。後手にして、両手でつかんでいるカンカン帽が、カラカラと鳴っている。

席には、組合員や、劇団員が、七八人いた。この地方で、古くから演劇運動をやっている河原重巳や、中村勉も、いた。

「なにか、御用ですか」

と、勝則は訊いた。

「用とはなんか。この芝居、明日、旭座に、血の雨が降ってもええ覚悟なら、やってみれ」

「どういうわけです?」

「おれに、わけを訊くのか。フン、盗人、たけだけしいちゅうは、お前等のことじゃのう。吉田の大親分に当てつけた芝居を、この若松で、やりきるなら、やってみい」

「それは、なにかの誤解ですよ」

「誤解? 糞くらえ。大体、太陽のない街、なんて、どこの世界にあるか。外国にはあるかも知れん。いんや、日本のどこかにも、ひょっとしたら、あるかも知れん。