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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

慟哭したい。

金五郎は、舳に立った。港に背を向け、黒々と荒れる外海に向かって、胸を張った。

「馬、鹿、野、郎、……」

一字ずつ、区切って、声をかぎりに、絶叫した。声は暗い海に呑まれて、なんの谺もかえっては来なかった。

「魚でも、とるか」

そう呟いて、面白くもなさそうに、ところどころに、投網を入れた。気乗りもせぬ打ちかたをしているのに、不思議に、いくらでも入る。大漁である。

腕時計を見た。午前三時。はっとした。眼が光りだした。また、力のかぎり、港内に向かって漕ぎだした。

中ノ島の横まで来ると、さかんに、夜業をしている一隻の汽船が見えた。

「友田」と入った提灯がいくつも点っている。

「寿満丸」という船名が、夜荷役のため、明かるいライトをつけているので、舳に、はっきりと、白く読まれる。

(やっぱり、……)

金五郎は、全身、硬直する思いがした。

寿満丸に、荷物炭二七〇〇トンを、徹宵、積込作業をすることは、調査して、はじめから、わかっている。しかも、それが、共働組でやることもわかっていた。金五郎は、投網打ちに出たとき、この寿満丸のことは、最初から、念頭にあったのである。