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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
全速力で、陸に向かって、漕ぎだした。
「逃げるのは、早うて、上手じゃのう」
「サツばっかりは、苦手じゃ」
「これぐらい、なんでも、パッパと、やるとええけんどな」
あまりにも、迅速で、整然とした退却ぶりが、われながら、おかしく、仲仕たちは笑いころげた。これも、熟練の結果である。というのは、港では、この種の喧嘩が、日常茶飯事のごとくになっていることを、証明するものに外ならなかった。
負傷者だけが、仏頂面をしている。喧嘩のはげしかった割りに、大きな怪我人はなかった。手拭や、シャツを破って、応急手当をほどこしている。巨漢の助役は、青い顔をして、船底に、横たわっているが、死んだように、元気がない。
壇ノ浦の方角にあたる東の空に、太陽がのぼって来た。真紅である。昨夜からのどんよりとした雲の中に、くっきりと、輪郭を見せている。
舳に腰をおろしている金五郎は、むっつりした顔で、膝をかかえていた。スコップでどやされた脳天がずきずきし、身体の節々が痛い。金五郎は、無性に、腹が立ってたまらない。
(仕事に勝ちさえすれば、喧嘩をせずにすむと思ったので、先に段取りしに行ったのに、勝っても、負けても、喧嘩か)