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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

マンは信心深く、神仏をよく祭ると同時に、さまざまの呪禁を行うことに長じている。今、マンが奇怪な行動をしたのも、その呪禁の一つだ。男が隠れてなにをしたか?――それを知るための不気味な方法である。

深夜、暗黒と妖怪との恐怖に耐えて、便所の神と、井戸の神とを逢わせてやることが出来たならば、その礼に、ふたりの神が、男の秘密を引きだしてくれるのである。便所の草履を胸におかれると、男は、無意識に、ベラベラと、一切のことをしゃべってしまうというのであった。

マンは、待った。かたわらに、猫が来て坐ったようである。

時計が、二時を打った。

金五郎の鼾がとまった。かすかな呻き声がした。

全身、硬直する思いで、呼吸を殺していると、

「お京は、死んだよ」

間のびした、舌のもつれているような語調の声がおこった。顔は全然見えない。

ぽつんと切れたが、

「可哀そうな女じゃったよ」

という次の言葉から、ダラダラと、独白がつづきはじめた。

「おれは、久しぶりで、お京に逢うたとき、びっくりした。あんまり若うて、美しゅうて、一つも年を取っとらんもんじゃけ、不老不死の女子かと思うた。そしたら、それは、お京ではのうて、娘のお葉じゃった。