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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

あたし、あなたを見て、母が命がけで惚れたわけがわかりました。あたしも、あなたに心底から惚れました。母があたしに乗りうつったのです。ねえ、金五郎さん、あたしの、……いや、母の、……いいえ、お京とお葉という、哀れな二人の女の一生の願いを、かなえさせて頂戴。

お葉は、そういうて、おれに抱きついた。お葉の身体は、七輪のごと、熱うなっとった。眼に一杯、水がたまっとる。

おれは、困って、黙っとった。

――金五郎さん、母は死にかかってます。死ぬ間際まで、一度はあなたとの思いをとげる日を夢にえがいています。もし、あなたがあたしのいうことを聞いて下さらなかったら、母は死んでも死にきれないでしょう。あたしは母に報告する義務があるんです。あなたは母の一生を台なしにし、今また、その母を見殺しにして、あたしの一生をも台なしにしてしまおうとなさるの? それでも、男なの? 人間なの? 血が通ってるの? 情があるの?

おれは、おかしなことに、そんなときに、鍛冶屋の清七のことを考えだしとった。清七がカンのにぶい奴で、朝、頭をたたかれて、夕方になって、アイタというほどのろくさい男じゃが、おれの方がよっぽど、カンが鈍い。