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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
と、うそぶいている夫や、妻があった。マンは、錯倒せざるを得ない。
家に帰りつくと、マンは、入口のところに、釘づけになった。足が進まなくなった。
兄は、さっきとは打って変って、元気になっている。横になったままではあるが、チヱの手を取り、落ちくぼんだ眼を、妖しく、ぎらつかせながら、なにか、弾んだ語調で、叫んでいる。その言葉は、舌が廻らないため、はっきりとは聞きとれないけれども、マンの耳には、たしかに、
「お前を残して、誰が死ぬもんか。シズ子や、松吉や、今度生まれて来る子を置いて、誰が死ぬもんか」
と、聞えた。それを、お経のように、単調に、くりかえしている。
マンは、戸口に、佇立したまま、したたかに、背負い投げを食わされた思いだった。味気なく、自分の無力さを、痛感せずには居られなかった。
人々を、恐怖と戦慄のどん底におとし入れた「上海コレラ」騒動は、それから、半月以上も続いた。浜尾組でも、巨漢助役をはじめ、二十人近くの死者を出した。谷口林助は、辛うじて、一命をとりとめたが、タカは死んだ。
青い腕章をした市役所の吏員が、やって来て、玉井金五郎と、森新之助とを呼びだした。