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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

「おい、鶴よ鶴よ、どうしてまあお前は歌など唄い出したのだ。ああ、それにしても非常な出来栄えだったね」

この経緯は今いった通り古市加十が代筆して酒月園丁長記となって精しく「夕陽新聞」に掲載されたが、これについてはもう少し詳しく述べて置かねばならぬ裏の事情があるので。というのは他ではない、酒月の娘は四五年前から「夕陽新聞」社長の幸田節三に囲われているので酒月はその恩に感じ何かにつけて「夕陽新聞」に忠勤を擢んでてやろうとした際であったから、この不可思議な出来事を目撃するとすぐその足で幸田節三の妾宅へ飛んで行き事細かにありし次第を耳打ちした。幸田節三は布団の上に胡座をかいて酒月の話を聴いていたが、やや暫くののち急にポンと膝を打って、

「ああ有難い。幸田節三これでどうやら運が向いて来た」

と叫ぶようにいうと、いきなり神棚に向ってポンポンと柏手を打ったと伝えられる。

こういう経路を踏んで「唄う鶴の噴水」は夕陽新聞の特種になって了った。国家的瑞兆という三段抜きの大標題で手の込んだ記事を書上げ、名士、博士を総動員して感想を執筆させた。中には拒絶した向きもあるが、大部分の人々は後難を恐れて思いつきを述べて来たので、約卅人に余る名士がうやむやのうちに「唄う鶴の噴水」