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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
に敬意を表することになった。他の一流の諸新聞は笑殺して歯牙にもかけなかったが、これに対する市民の感激は予想外に昂揚し、このような大瑞兆の記事を掲載せぬのは実に傲慢至極なやりかたというような投書が編集部の机上に山積するようになり、幹部一同も俄かに狼狽して善後策を講じたが、その時ははや後の祭り、鶴の噴水事件の人気はすっかり夕陽新聞に攫われて了うことになった。一方無名の夕陽新聞はこのために一躍有名になり、その売行は鶴に因んでさながら飛ぶが如くであったとでもいって置こう。
古市加十が、今夜東京会館の忘年会で不当な侮辱を受けたのは、その裏に「唄う鶴の噴水」事件に対する各社のはげしい嫉視羨望が大いにその原因をなしていたのだと考えられるのである。
東京市の公園課でも捨てては置けず、音楽学校の教授を委嘱してその原因を調査して貰ったが、その結果は何れも雲を掴むような報告ばかりで、一体それがどういう事情によって起る現象なのか判明しない。
ああ、それにしても噴水の鶴が歌など唄い出すようになったのであるか。一流の理学者達が頭を捻っても判らぬものが、作者などには諒解されそうにもない。