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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

手前らはつい只今まで日本警視総監の至らざるところなき歓待を受けておったのであります。これも偏えに御威徳の然らしむるところでありまして、申そうに、感激のほかはないのでござります」

加十は横柄に顎で椅子を差示しながら、

「馴れぬ酒を飲んで腹をこわすな。……それはそうと、先刻の返事をする」

秀陳は正しく椅子に掛け、

「手前ら、殿下のお返事承りますでございます」

加十は意気揚々と、

「おい、感違いしてはいけない。ダイヤモンドはちゃんと警視庁の金庫に預けてあるのだぞ。嘘だと思ったら電話をかけて聞いて見ろ」

秀陳はたちまち感激の色を面に漲らせ、

「ああ、果して果して! 賢明なる殿下におかれてさようなる軽率なお振舞いがあられようなどと推量いたすさえ、もはや失礼に過ぎると申すべきでありましょう。かくて、手前らは秘宝に関する殿下のお返事を承ったのでござります。……次に御帰国のお日取の方を」

「二三日中に帰る。お前から理事官長に暗号電報を打って置け」

といって妙な作り笑いをし、

「秀陳、今度はいろいろ世話になったな。帰ったら勲章をやる」

秀陳は椅子から飛び上り、

「つがもない! これしきの事に御褒賞などは!」