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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
……それはそうと、頼みというのは外でもない、ちょっと見て貰いたいものがあるんだ。こっちへ来てくれ」
といって、机の曳出しからピストルを取出してポケットにおさめると、花を連れて課長室を出て行った。
間もなく真名古と花の姿はコンクリートの暗い中庭に現われる。明々と灯火が洩れる三階建の建物で四方から囲われてちょうど井戸の底のようになっている。真名古はそこへ花を踞ませると高い三階の窓の一つを指し、
「ここからあそこまでの高さは、お前の部屋の窓から有明荘の鶴子の家の窓までの高さと大体同じだ。……そこで、俺がいま合図をすると、あの窓掛が急に上って一人の男が窓から顔を出す。今朝鶴子を投落した犯人がやったと同じような順序になるだろう。その男の身長と頭と手首の辺をよく見ているのだ。ほかの窓に気をとられてはならん。それから、どんなものを見てもここで口をきいてはならん。……いいかね、ではやるよ。あの窓から眼を放すな」
というと、ポケットからピストルを取出し、筒先を空へ向け轟然と一発射ち放した。おびただしい四方の窓が一斉に開いて、色々な顔が突出される。真名古が指した窓からは毬栗頭の総監が半身を乗出し、中庭を見下ろしながら、何だ何だ、と怒鳴っている。