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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

思うに真名古は花の家の家宅捜索をしろと命令したのかとも思われるが、もちろんこれは作者の推察で、真偽のところは定かではない。

何ともつかぬこんな微妙な事があったのち、真名古は薄い横文字の本を持って戻って来て朗読を始める。

読者諸君は御存知であろう、「雀」というのは、風で巣から落ちた小雀の側へ猟犬が忍び寄ると、親雀が舞い降りて来て、身をもって小雀を庇おうとする話である。

どうも真名古のする事はわからない。まるで検察のためにこの世に生れて来たようなこの男の冷徹な頭脳は、今一体何を考えているのか。……まるで亡者のように痩せ衰えた、影の淡い男の前に、花が開いたような、美しい健康に満ちた娘が対座しているさえ、余り奇抜なコントラストなのに、このいかめしい部屋の趣きにたいして、散文詩などはなはだ不釣合なのである。

この大騒動の真ッ最中に、真名古が何のためにツルゲネーフなどを読み出したか、凡庸な作者の推察力ではとても窺知すべくもないが、ふと見ると、又しても真名古は奇妙なことをやっている。

書類のうず高い事務机の端の方に、小さな屈折鏡のようなものがあって、本を見るようなふうをしながら、真名古の視線は鋭くその鏡の面に注がれているのである。