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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
鏡の中には花子の美しい横顔がはっきりと映っている。真名古はさっきから、鏡に映る花子の表情から目を離さずに、仔細に観察していたものとみえる。
真名古は極めてノロノロとやる。墓場からさまよい出した亡霊のようなこの男の、どこからこんなリズミカルな声が出るかと思うほど、それは清く澄んだ、澱みのない声で、イントネイションの美しさは、如何なる名優といえどもこれに及び得るものはあるまい、人の心を夢心地に誘い込むような、不思議な力を持っているのである。
「……犬は静かに歩みよった。するとふいに近くの木から胸毛の黒い親雀が、犬のすぐ鼻さきへ石のように飛びおりて来た。羽根をふり乱し、哀れな声をしぼって、二度ばかり、白い歯をむく犬を目がけて襲いかかった。……親は仔雀の命を身をもって庇おうとしたのだ。けれど鳴く声は次第に狂おしく嗄れていって、とうとう地の上に落ちてしまった。……私はこの勇ましい小鳥のまえに、その愛の激発のまえに、思わず蕭然と襟を正した。――愛は死よりも強い。それによってのみ生活はささえられ、またおし進められる」
この崇高な親雀の話は、花にもよく理解されたものと見え、初めは当惑そうにモジモジしていたが、おいおい顔を上げて熱心に聴き入るようになった。