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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
充分納得するまで探し廻ったが、噴水の台座から入り込めるような隙もなく、また岸の近くにも穴などはない。挨拶もなしに私服らの傍を離れると、向う側を調べる気で一散に土手を駆け降りようとするはずみ、その根方でいきなりまっ逆落しに深い穴の中へ落ち込んだ。
首の骨を折らなかったのはまだしもの事であった。ひどく頭を打ちつけて、しばらくの間ぼんやりしていたが、やがて気がついて見廻して見ると、それは六尺ほどの竪穴でその横っ腹に人が這って行けるほどの横穴がつづいている。
加十は〆めたと喜んで奥の方へ這って行くと、意外にも、その横穴は三間ほど行ったところで行き止りになっている。マッチをすって調べて見ると、つい最近掘られた痕がまざまざと残り、その上よほどあわてたものと見えて、シャベルが一梃忘れられてある。
これで加十の推理は、まんざら見当外れでなかったことが証拠立てられた。普通の道路工事か水道工事なら、こんな道の真中に危険な穴をあけたまま放っておく筈がなく、少なくとも周囲に繩をまわし、赤ランプをつけて置く筈なのである。……つまり、この穴は、加十の想像通り、誘拐者が王様のところまで行こうとして、大あわてに掘ったものだということがわかる。