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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
「花子は確かに見ている。……見てる段じゃない、今朝、鶴子のところで何かおッ始まるてえことをちゃんと前から知ってたんだ」
「えッ、それはどういうわけ……」
「訳もくそもないさ。……考えてごらん、一体今まで花子の部屋の電灯が消えていたためしがあったかい? 暗いと疳が立って眠られないといって、いつも五燭の電灯をつけッぱなしにしているだろう。……わちきなんざ、夜更けて帰るときは山王下から駆けるようにして来て、あの明るい窓を見上げちゃいつもホッとするんだ。……それなのに、なぜ昨夜に限って消す? たとえ除夜の晩にしろ、朝の四時ってえ時間に、何の必要があってそんな面をして鶴子の方を見上げている?……土用中でもあるまいし、この寒中に、風に吹かれているわいな、はないでしょう。……とんだお軽だあ、風邪をひくぜ。……今朝、虎ノ門で逢った時、わちきがちょいと鎌をかけて見たらひきつけそうになったっけが、そのわけがこれでよく嚥み込めたよ」
山木は膝を揺り出して、
「すると殺ったのはいよいよ王様だってえことになるわけだね。もし王様でなかったら、あの片意地な娘が黙ってなぞいる筈はない。