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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
思うに、この青銅像の作者は、もののあわれを知った人だったのだろう。台座に繋ぎ止められて、永劫に水を噴き上げねばならぬこの不幸な鶴に、せめてこんなポーズをとらせることによって、作者の同情を現わそうとしたのに違いない。
真名古はややあって声を発し、
「一体、この世に「目的のない犯罪」というものが存在し得るのであろうか。もし、存在するとすれば、今朝の「唄う鶴の噴水」の事件がまさにそれだ。かいなでに考えると、幸田や酒月が何か鶴の中へ仕掛けたのだろうかと思われ勝ちだが、どうして、あのスレッカラシが、すぐ尻尾を掴まえられるような、そんな窮した真似をするわけはない。あれは多分、幸田、酒月以外の何者かが演奏した、何かの犯罪の標題に違いないのだが、あまり飛躍しすぎていて、どうしてもその目的を察することが出来ない。俺にすれば、この世に目的のない犯罪などはあり得ないと断じたいのだが、こういう事実に逢着すると、さすがに迷わないわけにはゆかない。……これはたしかに何かの犯罪なのだが、その目的も動機も察しられないというのはどうしたものだろう。あれによってどんな人間に損害を与え、またどんな犯罪の効果をあげたのか、それさえ推察することが出来ない。