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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

大の男が三人揃っても一向見分けのつかなかったものを、一体どういう直感力でこの小娘が、これは王様でなく古市加十であると看破し得たのであろう。

思わぬ舞台の急変に、一同ただ唖然と花の狂態を打ち眺めるばかりであったが、前の三人のあやふやな証言とはこと違う、何かそこに惻々と迫る実感がある。

花がこの紳士を王様と呼ぶ以上、それは加十に違いないのだから、一同は盲亀浮木といった態たらく。していいものなら手を合わせて拝みたかったろう、警保局長は喜色満面の趣きで花の傍に近寄ると、その肩に手を掛け、その声に滴るばかりの愛嬌を含ませながら、

「これさ、娘さん。まアそう泣いてばかりいても仕様があるまい。それでは涙が種切れになるというものだ。それはそうと、君にはどうしてこれが王様だということがわかるんだね」

と、揉みほぐすような調子でいうと、花は何が気に障ったのか、急にキッと顔をあげ、

「何故あたしに判らない訳があるんです。あたしがだれ彼の見さかいもなく男の方の胸に縋りついたりするような女だとでも思っていらっしゃるんですか」

「いや、そんな失礼なことをいう気ではなかった。そう聞えたら陳謝するが、それはともかく、一体どういう証拠によってこれを王様だと判定したのか、くわしく説明してもらえまいか」