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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

どうせわれわれの命なんぞは安いもので、日本人の端っくれであるならば、こういう御役にたたなければ、立てる折がないんでございます。ありようは、みすみす十、二十と命をおとす有用な方々の、せめて弾丸よけにでもなりたいというだけで、ほかに存意のあることじゃございません。どうかまげて御聞きずみ願いたいんでございます」

と、ことを分けて頼み入るのである。しかし、こんな申出がその儘きき入れられよう道理がない。警視庁としては、やくざの手をかりて捕ものをするという訳には行かないが、しかし、まるまるあなたの顔を潰す訳にもいくまいから、何かの場合の用心に遠巻きにしてくれることは差支えない。

なんだか意味深長ないい方だが、前田の親分は納得してそれで早々に総監室を立出る。これでいよいよ戦闘が開始されることになった。

見上げれば、はや月は西に傾き、満地には一月の霜、人影一つない坦々たる馬場先門の大道を轟々たる爆音を轟かせながら、消灯したトラックの大列がさながら天からでも繰り出してくるように蜿々と有楽町の方に近づいて来る。いうまでもない。これこそは関東を二分してその覇を争う前田組の尖兵隊。