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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
「ふふ、大したシケ方だ。よしねえ、坊主が斎につきァしめえし、殊勝な面をするな」
といって、髪の長い顔の蒼い、堕落した詩人のような山木元吉の方へ振返り、
「今朝ほどは御挨拶もしませんでしたが、山木の旦那、あんた方はどんな景況で」
山木は充血した眼をショボショボさせながら、
「いやア、どうも惨々の敗北でねえ。……何しろあっしと踏ちゃんの部屋は待合のトバ口だったから、あッという間に踏ン込まれの、ひン捲られの、あたかもカサノヴァ伝を極彩色にしたような絢爛たる図になりましてねえ」
といって、板壁に頭を凭らせて陰気に煙草の煙を吹上げている廿歳ばかりの中形美人の方へ流眄をし、
「一方、踏ちゃんの方はというと、寝恍けるに事を欠いて、起しにかかった私服の手にすがりついて、まだ帰っちゃ厭、なんぞ発した穏かならん一幕もあり」
踏絵は裾を捲って形のいい脚を物臭そうにテーブルの上に投出し、
「止せってば、莫迦なことをべらべらしゃべるのは、みなが本当にするじゃないか。誰が、そんな」
と、ツと長い睫毛をあげて婀娜に睨む真似をする。
こんな事をいっていたんでは何の事やらお判りになるまいから、ちょっとあと戻りして事の次第を叙述しように、昨夜古市加十と宗皇帝が「巴里」