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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

、アッケラカンといつまでも鶴の口元を眺めているのである。他の一人は背広の上に古風なインバネスを羽織った、瘠せた背の高い、何から何まで黒ずくめの陰気な人物。すなわち先刻警保局の秘書官室から出て行った真名古捜査課長で、この方は糸のような細い眼の間から鋭い瞳を光らせ、さながら検察の妄執といった具合に、冷々陰々とこの顛末を眺めていたが、この時ツと踵をかえすと、傍らの異国風の紳士を押退けてそこから出て行った。

さて幸田は胴上げされたまま池の周囲を一周すると、押上げられるように演壇に上って行き、得意満面の趣で一席の感謝演説を行なったが、下らないからそれは略すとして、元来この奇現象の正体は兼清博士によってピタリといいあてられたのであるから、この栄誉の三分の二以上は当然博士に与えられねばならぬのに、横着にも幸田節三は今やそれをまるまる独占にしあえて訝しむ様子もないから、さすがの博士も忌々しくなったものと見え、演説もろとも幸田を押退けると演壇の端まで進み出で、白髪頭を振立て振立て、芝居の子役のような例のキイキイ声で、

「おい諸君、どうだ果して鳴いたろう。俺が鳴くといったら必ず鳴く。