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むじんとうにいきるじゅうろくにん

無人島に生きる十六人

須川 邦彦

線上閱讀須川 邦彦《無人島に生きる十六人(むじんとうにいきるじゅうろくにん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N3,點詞查義。

N3 · 進階 · 新字新假名 · 100,616 字 · 201 頁

青空文庫

あの剛気な川口が、せいいっぱいの雷声で、「あっ」と一声は出たが、あまりのうれしさに、それっきりのことばが出なかったのだ。あの場合、だれだってそうだろう。「あっ」というのは、「船だ」「帆だ」という意味なのだ。

島にのこって沖を見つめている十一人は、説明のしようもない、ただ胸いっぱいの気もちで、だれもだまっている。目にはなみだがいっぱいだ。わかい者は、一時はこうふんもした。だが、じきにおちついた。老年組は、さすがに、岩のようにどっしりとしていた。せんぱいたちは、どんなときでも、りっぱなお手本を青年たちに見せているのだ。ここが、日本船員のえらいところだ。

風が、ぴゅうぴゅうふきだしてきた。波のしぶきが、海面に白く立ちはじめた。その中を、伝馬船はあれ馬のように進んでいった。漕ぎ手は、いまこそ、たのむはこの二本の鉄のうでと、めざす帆船にへさきを向けて進むのである。けれども、漕いでも、漕いでも、帆船は近くならない。はじめは近く見えたが、四時間も漕いだのに、いっこう近くならない。

島を漕ぎ出したのは、正午ごろであった。午後四時すぎやっと帆船が近くなった。

私は遭難いらい、五ヵ月ぶりでズボンをはき、上着をきて、船長帽をかぶった。