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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(五)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 頁
――やッおれの路銀も」
「化粧道具は」
「櫛も、釵も。どこへ突っ奔って行きやがったのだろう。おれを置き去りにしやがって」
たった今、将来の発憤を誓って、涙をこぼした顔に、忌々しさを漲らしていう。
老婆は、土間口から覗いて、独り語のように、
「なんたらことじゃ。あの娘ッ子はの、いうたら、お客さんに悪いかしらんが、ほんまの病気じゃのうて、仮病して、不貞寝していよったのだによ。老婆の眼から見たらようわかるがの」
そんな声には耳もかさない。又八は茶店の横へ出て、峰を蜿る白い道をぼんやり眺めていた。
もう花も黒く散りしいている桃の樹の下に、寝そべっている牝牛が、思い出したように、長々と欠伸啼きをする。
「…………」
「又八」
「…………」
「おい」
「ウム?」
「なにをぼんやりしているのだ。去った朱実が行く先、せめて少しでもよい身の落着きを得るように、二人して祈ってやろう」
「ああ」
と、気のない顔の前に、小さな風の渦がながれていた。黄いろい蝶が一つ、見えない渦の中に弄ばれながら、崖の下へ沈んで行った。
「さっき、おれを欣ばしてくれた言葉。あれは、おぬしのほんとの決心だろうな」