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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Read 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,609 characters · 362 screens
「くどいなあ、分ってるよ」
「それから、山も」
「山か……」
と、百はちょっと、暗い顔をして、
「実をいうと、あの狭山は、うちの持山にはちげえねえが、頑固な叔父貴が住んでいて、先祖からの掟をたてに、どんなに困ろうと、売ろうとはしねえから……」
「こっちも、買うという話じゃない。抵当になら、あの山の茶畑に見込があるから、預かってもいいということなのだ。だが、そう後腐れがあるようじゃ困るから、百さん、気のどくだが、この話はまず、破談だな」
金貸の七兵衛は、そういって、もう、さっさと戻りかけた。
「待っとくんなさい」
百は、袂をつかんで、
「ようがす、山も。――この腕で、一生懸命に、稼いで返しゃいいわけだから」
「そうだとも、何も、手離すわけじゃない」
「じゃ、判を捺すから、証文を」
それとひきかえに、金をつかんで、百はまた息をきって、大楽寺の薬師堂へ走って行った。
青梅の勘三や、羽村の留や、また大勢の博労たちは、何か、少し話がもつれかけたらしく、がやがやと騒いでいたが、かれの姿を見ると、いっせいに振向いて、
「百が――」と唾をのんだ。
百は、ていねいに、小腰をかがめて、