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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Read 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,609 characters · 362 screens
九
「賭に遺恨なしだぜ、取られたからって吠えるなよ」
「な、何を吐かしゃアがる。憚りながら、五両やそこらの目腐れ金を取ったって取られたって、それでお天気の変る男じゃねえんだ」
「ほう……豪勢だの」
「こうなりゃ意地だ、てめえが血ヘドを吐くか、俺達が飢え死にするかだ。さ、こい!」
「いけないよ、お断りだよ」
「いけねえ? なぜいけねえ」
「何故って銭なしが二人ばかり、残ら肩を聳やかしたって、相手になりゃしねえじゃねえか。醤油賭は命がけだぜ、昼休みの番茶じゃねえんだから、二升五合賭なんて大口叩くなら、金主を見つけて出直して来い」
「こん畜生」
三公は真っ赤になって、両手をふところに押し込んだ。
倶利迦羅紋々でも見せるのかと思うと、グッと襟を割って、
「その口を忘れるなよ、梅忠じゃねえけれど、贋金じゃねえから目をつぶすな」
と、亀親方から工面して貰って来た小判十枚、伝公の前に叩きつけた。
九
左次郎は気をのまれてウロウロした。
自分に親切な男が、醤油賭の伝公だった。
それが伝公であったにしろ、左次郎が好意をもっていることに少しも変動はない。むしろ、三公のキザな科白が小にくらしく思えた。