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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Read 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,609 characters · 362 screens
首の番
一
「ちッ、忌々しいなあ」
と、睨まえて見ているだけだった。
首の番
一
ゆすり、辻斬、ばくち場荒し。一角の兇状は、一つや二つの首では足りない。
「一歩でも、出て来たら」
と、町方は、意地にもなって、
「千坂の屋敷から、半年でも一年でも、眼を離すな」
と、伏せを撒いて、張込んでいた。
「物騒だが……其方ならば」
と、当の兵部は、召使から邸外の様子を聞いて、苦笑しながら――
「急ぐことゆえ、今宵にも、米沢表へ」
と、あれから急に、旅立つことになった一角へ、餞別とはいえない、かなりな額の金を、こっそりと、渡した。
旅といっても、一角は、相変らずな着ながし一枚、もう寒明け、寒さもここらが関と、多寡をくくって、
「では、いずれまた」
と、貰った編笠を、横に抱いて、書院の縁に立った兵部の姿へ、目礼を。兵部はそこから、うなずいて、
「確と、そちを見込んで」
と、特に、見込んで――に力をいれて、
「……頼んだぞ」
といった。
ひらりっと、庭戸を押して、一角は、裏門の外へ走っていた。――と、すぐばたばたっと附近から雁のように立った跫音を、兵部は、知っていたが、黙然と、空を見ていた。家来たちも、主人の気持のまま、じっと、問わず聞かずに、黙っているよりほかなかった。