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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Read 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,609 characters · 362 screens
八
八
仕事先が二ツになるというので、竹、六、勘、由、亀親方の五人は両国から別の方にわかれ、丑、三公、左次郎の三人だけは、何時もの砂利場へ軽子に来た。
背丈が高いので、漆革の煙草入れを持ったあの親切な男の姿は、すぐ左次郎の目に映った。
左次郎がその男に馴々しくしていると、仕事のすきに三公が、
「左次ッ、てめえ、あいつと懇意なのか」
と、不服そうに睨んだ。
何の気もなく頷いて言った。
「ええ、あんな親切な人は、見たことがありません」
「けッ、何を言ってやがるんでい!」
左次郎は蹴飛ばされるのかと思って、飛び退いた。
本当は、部屋の者と一緒に食べなければ悪いと思ったが、その事があるので、左次郎は昼飯の弁当も、久し振りな男のそばへ持って来てムシャムシャやっていた。
すると、丑と三公が、飯を噛み噛み意気込んで来て、
「さ、伝公、二升五合賭で来い」
と、腕捲りをして前へ立った。
「伝公ッて? ……」
左次郎はヒョイと男の顔を盗み見た。
例の漆革の煙草入れを指に挟んで、ふーッとその面へ煙を吐いた男は、クスクスッと肩で笑いながら、
「まア、今日は止そうよ」
「逃げ張るねい、この間何と言った、五両賭でも十両賭でもしてやるが、砂利場中の者の金を寄せても、それだけは纏まるまいと吐かしたろう」