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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Read 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,609 characters · 362 screens
四
「おいおい左次さん、七十石の小禄でも、侍の息子じゃねえか。しっかりおしよしっかり。体が弱いと思ったら、日傭を稼いでいるうちに、ウンと天秤棒で鍛えておくさ。相手が腕利きの浪人とか何とかじゃ、少し困るが、なアに、おめえ、もと仲間している男だっていうなら、どんな頑丈だって多寡のしれたものだ。居所の分ったときは、俺も腕をかしてやる」
銅鑼屋の亀さんは乗り気になった。
梅雨も霽りそうなので、明日の仕事を見越し、質屋から帰って来た内儀さんに、酒を買わせた。
湿気払いを飲んで、羅漢の雑魚寝のように高鼾になった寄子部屋の隅っこで、左次郎だけはマジマジと眼をあいていた。
そして、寝入ったかと思うと、何かしきりに、囈語を言っていた。
四
部屋で一番元気者の三公が悄れていた。
毎日、稼ぎに出ていながら、湯にも行かず鮨の立食いにも出かけず、粉煙草をハタいて、鬱ぎこんでいる。
「おい、どうしたい」
丑や由造が訊くと、とうとう白状した。
「実はやられちまッたんだ」
「やられたって、何をよ」
「伝公と醤油賭をして、この間の前借をみんなアッパッパにしてしまった」
「こん畜生」
背中をどやしつけて――