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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Read 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,609 characters · 362 screens
「そこは、万々、心得ての上だ。――五年約束で、前金を一人あてに、二百両渡す、ある時期がすんだら、ちゃんと、藩籍へもどして、今の禄より、加増もしようという、うめえ話だ。悪かあねえだろう」
「誰だ、相手というのは。――どこの藩だかそれを先に」
青砥が、少し乗り気になると、湧井は、笑い消して、
「あまり話がうま過ぎる。一角、久しぶりに来て、人を担ぐのも、程にしろよ」
「なに、嘘だものか」
懐中から、百両の封金を、一つ、二つ、三つ――と眼の前へ転がして、
「見てくれ、手金さえ、持って来ている」
「ふふむ……」
「いくら、腕はできても、こう泰平つづきでは、軽輩のうだつが上がる時はねえ。――それを、どうだ、近頃にしちゃ、耳よりだろうが」
「――つまり、俺たちを、召抱えたいというのか」
「まあ、そんなものだ。肉縁の者を捨てて、脱藩してくれというのだから」
「それで、五年後には帰参させて、禄も増すというのは、どういうわけだ。合点がゆかぬが」
「そこが、相談。うん、といえ」
「だが先に――」
「いや、先にゃ、話せねえ。――何しろ、洩れたら」
「では、誓う」
「脱藩をか」
「いや、他言を――」
「友達を、疑いたかあねえが、これだけは。