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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Read 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,609 characters · 362 screens
「何が面白れえッ。馬鹿っ、彼方へ行ってろ」
と、佐渡幸が、どなった。
乾分は首をすくめて、二階へ舞い戻った。
佐渡幸は、生れてまだ十月ぐらいな、愛くるしい女の子を、あぐらの中に抱えてあやしながら、
「決して、心配しなさんな」
と、自分の前に、両手をついている雲霧へ、
「たしかに、俺が、預かって一人前に育ててやる」
と、いった。
雲霧は、そうしている間も、気が忙しそうに、
「今も、話したような因果の塊。――どうか、お願いいたします」
「ああ、いいとも。親はなくとも子はそだつ。折角、立派に覚悟をした雲霧が、そんな事を案じていちゃあ、往生の妨げだ」
「これで、すっぱりと、いたしました。――夜が白みかけたようだから、じゃ、これで御免なすって」
「行くかい」
佐渡幸は、子を抱いたまま、立ち上がって、
「――もう一目、見てゆきねえ」
「とても」
と、雲霧は顔をそむけて、
「いくら無心な嬰児にでも、この面ア真ともにゃ向けられません。――佐渡幸親分。おめえにもこれっ限り……」
「オオ、磔刑の日にゃ、矢来の外で、この子を抱いて、見送ってやるぜ」
「どうか、お達者に。……あっ、いけねえ、引窓の隙が白くなった」